ケンカの話

知り合いの家の前を通ると、中からイモを煮る匂いが流れて来た。
繁次郎が入っていくとケチンボな細君が手早く蓋をしてしまった。
バタバタと駆け込んだ繁次郎は、息せき切って炉端に座り込み、
「ああ、ドッテンこいだ(動転した)。
 そこの角の魚屋でものすごい夫婦ゲンカやってよゥ、
 あれほどの立ち回りは近ごろ見たことも聞いたこともねえ。」
思わずつり込まれたケチンボ女房が
「そったらに大きなケンカだったのかや」
「ま、聞いてけろ。亭主ァ天びん棒でカカアさ躍りかかったべ・・・」
「うん。そしたら・・・」
「なあに、カカアも負けてるもんか。いきなりこうしてナベの蓋取って」
と言ってから、さも驚いたように
「あれれ、イモ煮てたのか。やぁや、旨そうだな。一つご馳走になるか」
女房が気をもんで、
「それからどうしたの。ナベの蓋で棒を受けたのかい」
「エヘヘ、なあに、ナベの蓋取ってよ。ケンカは後回しだから繁次郎さん、イモ食って行ってけろってな。おめえと同じでなかなか話のわかるカカアだでば・・・」

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