役人コ

繁次郎は金持ちとか役人などに反抗するのが好きだった。
ある日、江差の町を歩いていると代官所の役人が肩を怒らして歩いて来た。この役人は権力を笠に着て罪とがもない者をいじめたり、むやみやたらに威張りちらすので有名な憎まれ者だった。
繁次郎は持前のいたずら気を起こし、遠くの方から、
「おいおい。役人コ。」
と呼んだ。これを聞いて烈火の如くに怒った役人は目の玉をでぐぐりかえして、
「なにっ、役人コだと。こりゃ繁次郎。貴様はこの役人様をつかまえて役人コと呼びくさったな、うぬ。憎ッくいやつ、目にモノ見せてくれるわ」
途端に地べたへ手を突いた繁次郎、
「役人コさま」
「この下司め、まだ役人コと申すか」
「あのう、そのう、日頃あなた様を偉い方と思っておりましたのでそのう役人コと申し上げてしまったようなわけで・・・」
「なに、偉い人だからコの字をつけたと・・・?それァ一体どういうわけだ」
「申し上げます。昔から偉い人はみんなコがつきますので・・・、
 松前侯、豊太閤、徳川侯というあんばいだンす。
 そこで俺も役人様にコをつけたようなわけで・・・」
それまで金時の火事見舞いみたいに赤くなって怒っていた役人は途端に機嫌をなおして、
「なあるほど。聞けばもっともな話だ。偉い人にはコがつくか・・・
 うむ、なかなかいい心がけだ。
 しかし我々を呼ぶ場合には“役人様・・・”だけで差し支えないぞ」
とニコニコしながら行ってしまった。後から赤い舌をペロリと出した繁次郎、
「ふん。笑わせるな。木っ端役人コめ」

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