ニシン潰し

ニシン漁が一段落して、ニシン潰し(身欠ニシンに加工する仕事)が始まった。腕の良い者ほど処理が早いので、ヤトイ(漁夫)はニシン潰しを自慢のタネにするし、九一(クイチ=褒賞金のこと。親方が収穫の九割を取り、残り一分を船頭や漁夫に分けたことからこの名が起った)にも影響するので、みんな真剣だった。若い者がせっせと働いているのに、繁次郎だけは例によってノラリクラリと遊び回っているので、親方がとがめた。
「この空ッ骨やみ(なまけ者、面倒くさがりや)、どうしてニシン潰さねえんだ」
「なあに、俺ァ一旦ニシン潰しをやり出せば、たちまちのうちに片付けてしまう」
「本当か」
「ああ、生まれてこの方ウソと坊さまの髪はゆったことがねえ。俺は一とき間に並みの若い者の、一日手間をこなしてみせる」
「ホラも休み休みにしろ」
「信用しねえな。よし親方、そんなら賭けやるべ。一刻で一人前のニシン潰したら一杯買うか」
「カラオーバク(生意気)な野郎だ。てめえにその芸当ができたら、一杯も二杯も買ってやらァ」
親方の言葉が終るか終らないうちに、脱兎のように納屋へ駆け込んだこの男、大きなカケヤ(木槌)を持って来て、モノいわずに、ノッチノッチと片っ端からニシンを叩き潰してしまった。
これには親方も開いた口がふさがらず、
「繁次郎、てめえには参った。何もしなくてもいいしけ、そこら辺で邪魔けにならねえように遊んでいてけろ」

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