ヨダレ酒

ヨダレ酒

ある晩、友達のところへ遊びに行くと、ちょうど晩酌の最中。
「俺だ。繁次郎だ。開けてけろ」
と、いくら怒鳴ってもだれも出て来ない。戸の隙間からのぞいてみると、くだんの友達は旨そうにチビリチビリやりながら、女房に、
「繁次郎のやつ、またススケル(酒をたかる)気だ。絶対に表の戸を開けるなよ」
と、いってる声が聞えた。
頭にきた繁次郎はたちまち一策を案じて、
「おい。ヤット(早く)開けてけろ。なンもかも、マガレテ(こぼれて)しまうてば」
これを聞いた相手が、さては繁次郎も一升持って来たかとニンマリしながら庭へ下りて戸をガラリ・・・
「繁次郎。酒でもまがれるッてが」
と、手元をのぞき込めば、
「なぁに、おめえの飲んでるのを見たもんだから、ヨダレがまがれてしまって・・・」

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